この記事は Retty Advent Calendar 2020 9日目の記事です。
はじめに
こんにちは。広告コンテンツ部門の進藤です。 ここ1年間は広告コンテンツ部門の収益拡大・体制構築に注力してきたので、2020年の振り返りとして取り組みをまとめました。
ざっくりいうと下記です。
- もともと取り組んでいた「広告マネタイズ」に加え、「コンテンツソリューション」で新たな収益源を創る
- 「コンテンツソリューション」を伸ばしていくための体制構築とプロダクト開発
メディア企業のマネタイズ戦略を考えている人たちに読んで共感いただければ嬉しいです。 ちなみに、2018年、2019年の取り組みもアドベントカレンダーで書いているので是非読んでみてください。
2019年 engineer.retty.me
Rettyビジネスモデル全体像と広告コンテンツ部門が担っていること
まず本記事を理解しやすくするために、Rettyビジネスモデル全体像を紹介します。 Rettyが展開しているビジネスは、「FRM」と「広告コンテンツ」の大きく2つのセグメントがあります。
(1) FRM (Fun Relationship Management) 1つ目が「FRM」です。(※ FRMは、Fun Rerationship Managementの略)
SaaSモデルで、飲食店向けに集客機能や顧客管理機能を備えたソリューションを提供しています。 2014年にソリューション提供を開始して以来、継続的に会員店舗数を積み重ねています。
(2) 広告コンテンツ 2つ目は「広告コンテンツ」です。
広告コンテンツは、① Rettyを活用した広告ソリューション ② コンテンツ(飲食店情報)を活用したコンテンツソリューションの2つから成り立っています。
① 広告ソリューション 広告モデルで、企業向けにRettyを活用した広告ソリューションを提供しています。
こちらもFRMと同じく2014年にソリューション提供を開始し、 ブランド認知向上等のプロモーション支援を目的とした純広告と、アドテクノロジーを活用したプログラマティック広告を展開しています。
② コンテンツソリューション SaaSモデルで、Rettyに蓄積されたコンテンツ(飲食店情報等)を企業に提供し、外食トレンドの分析、自社サイトのコンテンツ制作、マーケティング等に活用いただいています。
2019年10月にメインプロダクト「Food Data Platform」を提供開始し、部門一丸で注力して伸ばしているビジネスになります。
「コンテンツソリューション」の立ち上げ背景
2019年以前は、飲食店向けSaaSモデルと、企業向け広告モデルの2つが、Retty収益基盤でした。 この2つの収益基盤が継続的に売上成長していったことで、企業として健全で持続的な経営に繋がり、 Retty利用ユーザーに『あなたにBESTなお店が見つかる』体験の提供と、サービス改善し続けることができています。
そのなかで企業向け広告モデルの課題も見えてきました。
これらの課題に向き合い、戦略・体制を組み直し、 また、収益化の軸をどこにおくか、どこに注力して収益をのばしていくか、ということも検討をしたのが2019年でした。
広告モデルの取引形態と戦略
一般的に、広告のビジネスモデルを展開するにあたって、メディアがすることは、
- ユーザーに対して、価値あるコンテンツを提供することでコミュニティを形成し、
- クライアントに対して、コミュニティにリーチできる権利を販売する。
そして、メディアが大きくなるとともに、広告取引形態が多様化して、 アドネットワークからプログラマティック広告 (運用型取引) へ、そして純広告 (予約型取引) へと収益性の高いビジネスを展開することができます。
取引形態をまとめると下記になります。
取引形態 | 収益性 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
アドネットワーク | 小 | 小規模のメディアでも導入しやすい | メディア側での単価レバーに制限 (枠買い切り・メディエーション) |
プログラマティック広告 | 中 | 広告枠の最低単価レバーを持てる | フロアプライス・広告ソリューション(HeaderBidding等)・PMPの運用体制の構築コスト |
純広告 | 大 | 広告単価が高い。掲載可否等コントロール可能 | 社内の営業体制・商品企画開発体制の構築コスト |
Rettyのようなサイト規模になってくると、 広告モデルを伸ばしていくにあたって下記戦略に行き着くことになります。
- 単価の高い純広告・PMPを販売する営業体制を構築し、商品企画・開発を行う
- すべての広告在庫を純広告・PMPで販売しきれないので、余剰在庫に対して、プログラマティック広告を配信。収益をあげていくための運用体制・ソリューション導入を進めて、プログラマティック広告単価を上げていく
広告モデルで継続的に収益を伸ばしていくための戦略
前述した「広告モデルの取引形態と戦略」以上に大事なこととして、 「継続的に収益を伸ばしていくための戦略」を考える必要があります。
収益を伸ばしていく方針としては下記になります。
方針 | 具体例 | 実行に移すのに困難なポイント |
---|---|---|
広告在庫を増やす | PV・広告枠を増やす | 実行が困難。特にメディアのPVを伸ばすこと。広告枠を増やす選択はユーザー観点・RPM観点でも安易にとりたくないこともある。 |
取引クライアントを増やす | 新規クライアント獲得 | クライアントと接点を作って直接提案できる関係値を築くのが困難 |
商品開発で単価を上げる | 付加価値の追加・魅力的な商品を提供 | クライアントヒアリング・広告トレンドを把握し、ヒットする商品企画・商品開発をしていくことが困難 |
継続的に収益を伸ばしていくためには、上記いずれの戦略も、会社として同時並行で進められる状態になっている必要があります。 同じ部門でも取り組んでいくでも良いし、別部門でそれぞれの取り組みを行うでも構いません。
Rettyのようなサイト規模になると、 前述した取引形態も含めて、継続的かつ収益成果に結びつくために、下記戦略に行き着きます。
- メディアを (PV観点でも、ブランド観点でも) 大きくしていきながら、
- 収益性のある商品を販売する営業体制を構築し、
- クライアントヒアリング・トレンド・市況を把握して商品企画・商品開発を行い、
- 取引先クライアントを増やし続ける
- 余剰在庫の収益最大化にするためのアドテクソリューション導入を進める
広告モデルを継続的に伸ばしていくにあたりRettyで見えてきた課題
と、ここまでは一般的に言えることがですが、 収益性の高いビジネス展開にあたって、クライアントのニーズを的確に捉え、提案・取引拡大に繋げるために、 体制・戦略をアップデートしていくことはなかなかに大変です。
とくにいまは、メディアレップ・広告事業者・広告代理店がより良いソリューションを提供していることもあり、 メディア自ら、前述した通りの戦略と実行が弱いと、収益性の高いビジネスに移行できなくなります。
Rettyで前述した戦略を実行するにあたり見えてきた課題としては、下記があります。
課題に対する打ち手を議論しながら、商品アップデート・クライアント取引拡大を進めていますが、 継続的かつ収益成果に結びつく納得感ある体制を作りきれずにいます。
具体的にいくと、グルメのバーティカルメディアとして、 グルメ軸を超えたクライアントとの接点、提案、商品開発が進まなくて、戦略を議論していくたびに暗い気持ちになっていきます。
課題に対する打ち手。「コンテンツソリューション」立ち上げ
前述の課題に向き合って、Rettyサイト内での広告モデルに依存するのではなく、 Rettyサイト内に閉じない「市場トレンド」と「Rettyの強み」を活かす形と、「既存の広告モデル」にもプラスになるビジネスを検討しました。
その結果、2019年に「コンテンツソリューション」を立ち上げることになりました。 下記「市場トレンド」と「Rettyの強み」を活かす形で「コンテンツソリューション」に注力しました。
- ビッグデータ連携活用の市場トレンドが高まり、いくつかのクライアントから問い合わせがあったこと
- Rettyには、蓄積されたコンテンツ(飲食店情報・口コミ)と、データ活用のナレッジ・テクノロジーがあること
2020年に部門一丸で注力していくなかで、 新規クライアント獲得、既存クライアントとの取引拡大、「コンテンツソリューション」と「既存広告商品」を組み合わせた取引も実施でき、確かな手応えを掴むことができました。
「コンテンツソリューション」のメインプロダクト「Food Data Platform」
「コンテンツソリューション」のメインプロダクトは「Food Data Platform」になります。 Food Data Platform は、Rettyで蓄積された飲食店情報・統計情報・口コミ・画像を、外部企業のサービスとシームレスにデータ連携するビッグデータ連携基盤です。
Food Data Platform (公式サイト) campaign.retty.me
プレスリリースを紹介します。
部門一丸となってコンテンツソリューションに注力
2020年は、コンテンツソリューションを伸ばしていくために体制構築を進めていきました。 具体的に取り組んだこととしては下記があります。
- 営業・企画・開発・Deliveryの4チーム体制を発足
- Deliveryチームの発足
- 営業の分業体制。営業(新規クライアント獲得)と企画(既存クライアント取引拡大)に分割
- 開発はスクラムを組んでプロダクト基盤開発に専念
※ Deliveryは、クライアントに価値を届けるために、PdM/PMMの動きをする役割・チームです。
いずれも部門にフィットし、コンテンツソリューションを伸ばすことができました。
営業・企画・開発・Deliveryの4チーム体制を発足
広告コンテンツ部門は2019年10月に発足したのですが、 2019年以前から、純広告営業・商品企画・商品開発・プログラマティック運用が行われていて、営業・開発の2チーム体制で進めていました。
営業がクライアントに提案を行い、フィードバックを商品企画に反映し、開発が商品開発を行う、といったものです。
当時は、広告事業・ドメインに精通していたメンバーが営業・開発チームの双方にいたことと、コミュニケーションコストをかけずスピード感もって進めること、商品開発自体が開発リソースを大きく動かすものでもなかったこともあり、2チーム体制で進めることができていました。
広告コンテンツ部門が発足し、「コンテンツソリューション」を伸ばしていくため、 営業は営業活動に、開発はプロダクト開発に、専念する必要があると判断し、 さらに、セールスとプロダクトを繋ぎながら案件を成功に導くために4チーム体制に変更しました。
チームが増え、メンバーも増えて、職種もバラバラで、コミュニケーションフロー・タスクのお見合いがかなり発生しましたが、新しく発足したDeliveryチームがイイ形で整えてくれたこともあり、少しずつ改善してきています。
2チーム体制のままだったら、営業・開発のどちらかが専念できず、クライアントにご迷惑をかけることになったんだろうな、といまでは思います。
Deliveryチームの発足
前述の通り、セールスとプロダクトを繋ぎながら案件を成功に導く役割として、Deliveryチームを立ち上げました。
当初は、受注した案件に対して、成果物を提供するオペレーション(運用) に近い領域を期待していましたが、 僕の期待をどんどん超えていき、Deliveryチームとして幅広い業務をこなし、顧客への提供価値を広げてくれました。
- プロダクト方針の意思決定者としての役割
- プロダクトロードマップ・インセプションデッキ作成
- 営業と並走してクライアント提案・商品企画・プロダクトフィードバック
- カスタマーサポート
- オペレーション領域の作業効率化
- チーム横断したコミュニケーションフローの整理
- SQLを書きデータ抽出と分析を行う
- BIツールでレポート作成してKPI可視化
プロダクト開発体制でのトレンドである PdM (Product Manager) と PMM (Product Marketing Maneger) のどちらの役割も担ってくれています。 将来的にはチームも体制も分割の検討が必要ですが、現状は1チームで担ってくれています。
Deliveryチーム発足を振り返ってみると、 最初は僕自身、ビッグデータ連携基盤というプロダクトの性質上、 Deliveryはエンジニア経験者でないと厳しいのでは、とか、ビジネススケールのためにセールスエンジニアの採用が必要ではないか、 という固定概念がありましたが、良い意味でぶち壊すことできたのが、2020年のトピックスです。
営業の分業体制
新規クライアントとの取引が進まなかった要因の1つに、 営業メンバーに売上目標がつくものの、売上を作るための「新規クライアント開拓」と「既存クライアント取引拡大」の優先順位が決まっていなかったことがあります。
当時は、接点を持ち長い期間をかける「新規クライアント獲得」より、既に接点があり与件もある「既存クライアント取引拡大」で、売上を作ることことに偏っていました。
そこで、営業1人ひとりにどちらも追わせるのではなく、チームを分割し、それぞれのチームで適切な目標を設定することにしました。 その方針に沿って、営業の分業体制が導入され、営業(新規クライアント獲得)と企画(既存クライアント取引拡大)に分割しました。
また前述のDeliveryチームも、営業活動を行う上記2チームと並走できる体制を作り、Deliveryが提案準備・商品企画・プロダクトFB・プロジェクト進行管理を行うことで、営業活動をより専念して行えるようにしました。
「現代ビジネスの教科書」とも呼ばれ注目を集める書籍『THE MODEL』でいうところの、下記を実感しました。
分業すれば、同じリズムの仕事に集中することができる。そうすることによって効率が上がり、次第にゾーンに入っていくような感覚が出てくるのだ。
開発はプロダクト基盤開発に専念
開発は「Food Data Platform」の基盤開発に専念しました。 限られたリソースのなかで、マーケットが求めているプロダクトを提供し続けるために、 基盤開発で大事にしていることに触れておきます。
一言でいうと、下記につきます。
『データから新たな価値を創造するために、いま注力すべき領域を決めて実行する』
最悪のシナリオは、「Food Data Platform」が、Rettyで蓄積されたコンテンツをただただ提供するシステムになることです。 今後、ビッグデータ連携基盤としてプラットフォーマーとして生き残るために、データから新たなビジネス価値を創造し、連携先のビジネス成果を向上させるプラットフォームになる必要があります。
そのために、開発としていま注力すべき領域を3つに絞り、自社開発と外部パートナー企業連携で推し進めています。
- 企業のサービスとシームレスにデータ連携を行うためのAPIインターフェイス
- Rettyと外部からデータを取り込み、適切に加工を行うためのETL基盤
- データから新たなビジネス価値を創造するための価値創造基盤
長くなるので、ここでは、価値創造基盤とパートナー企業連携に触れることにします。
開発チームメンバーがいくつか記事を書いているので参考にしてみてください。
ビジネスに価値をもたらす価値創造基盤と、基盤を支えるパートナー企業連携
同じことの繰り返しになりますが、 データから新たなビジネス価値を創造することが大事と捉えています。
プロダクトにもその思想を組み込んでおり、 Rettyが保有するコンテンツや、外部データを取り込み、分析・整形・可視化を行い、 クライアントにスムーズに提供できる基盤を開発しています。
具体的な取り組みはこの通りです。
- 観光者に人気かつよく行くお店度合いを表す統計データ
- クライアントが保有する飲食店データと組み合わせて新規開拓の精度改善
- 外食のトレンド分析から商品開発を支援
また、産学連携を通して研究成果を「Food Data Platform」への事業推進にも活用しています。
新たなビジネス価値を生み出すのに重要な分析・整形・可視化を行うシステムは、 他システムとの依存関係を下げ、拡張性・変更に強い設計をすることで、 クライアントとの連携を推し進めることができるように心がけています。
上記を実現していくために、パートナー企業との連携は不可欠になります。 システムインテグレーション、データ可視化、AIプラットフォームなどをパートナー企業と連携することで、 注力すべき領域の開発に集中し、組み合わせることでプロダクトスケールを実現することができています。
最後に
メディア企業として、ユーザーに価値ある体験を提供し続けるために、 収益基盤が継続的に売上成長して、企業として健全で持続的な経営をしていくことが大事です。 収益基盤を任せられている部門としては、常々ビジネス戦略を立てて実行をしていく必要があります。
もちろん、企業のビジネスモデルや課題は、企業ごとに千差万別です。 いずれにせよ、自社が持つ強みから検討して、戦略・実行にうつしていくことをオススメします。
そのなかで、2020年に感じたことは「ヒトが事業を創る」ということです。
注力領域を変えて、戦略・体制を構築するなかで、 このヒトがいれば事業が成立するというイメージを持つことができ、実際にうまく回ったことと、 ヒトが成長して事業に欠かせない戦力になり、対応できる幅が広がり、強い組織になったこと、 ここを実感できたことが自分にとっても大きな成長になりました。
引き続き、強い組織にしていくために、猛進していきます。